コクリバ 【完】
突然の出来事に、どう対処していいのか戸惑ったまま、家に入ると、

兄がいた。

「な、なんでいるの?」
「あぁ。すれ違いになったな」

嘘だ。

コンビニからの最短距離は、私が通ってきた道以外にないのに、
会わなかったとなると、わざわざ遠回りするしか道はない―――

兄は嘘をついた。

だから、今日のことは仕組まれたことなんだと、この時に気付いた。

過保護の兄が、中山さんと先に帰れと言ったのも、菊池家で会った時の態度も、全て今日のことを兄は知ってるんだと思った。

何も言わずに部屋に行った。
兄も何も聞かなかった。

ただそんな兄の仕打ちに無性に腹が立った。
いつもは恥ずかしくなるくらいの過保護っぷりなのに、大事な時に助けてくれないなんて、なんて使えない兄だとさえ思った。

もしかしたら兄は、中山さんと私が付き合えばいいと思っているのではないかと、しばらくしてから気付いた。

兄に、売られた―――

今まで私を支えていた大きな柱が、いきなり無くなったような気がした。

中山さんに告白されたことよりも、兄に裏切られたことの方がショックだった。

部屋の机でうつ伏せになって、そんなことをグルグルと考えていたから、机に置いていた携帯が突然震えだした時、肩がビクッとなるくらい驚いた。

着信の相手は、登録のない携帯番号。

すぐに思い出した。
「後から電話する」―――
高木先輩の声が頭の中に響いた。

「……はい」
ほとんど先輩からだろうと思いながら、恐る恐る声を出した。

「……」
だけど、相手は喋らない。

「……もしもし……」

もしかしたら、先輩じゃなかったのかも……
そう思った時、

「あ…俺……」

少し笑っている感じの高木先輩の声。

思わず携帯を握りしめた。
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