コクリバ 【完】
「センパイ……」

どうしようもない暖かなざわめきが、胸の中いっぱいに広がる。
さっきまで会っていたのに、もう会いたくなる。

「無事に帰れたか?」
「……はい」
「そうか……」

携帯に耳を押し当てた。
その機械の向こうから聞こえてくる音を、少しも漏らすことなく全部聞き取りたかった。

「……」

お互い何も話さないで、空白の時間が続く……

あれだけ二人になったら聞きたいことが沢山あったのに、
いざそうなってみると、何も出てこない。
何を聞こうとしていたのかさえ、思い出せない。

何か言わなきゃと焦り始めた頃、
「おまえ……緒方さんに何か言ったか?」
予想もしてない質問をされた。

「え?……」
「兄貴に俺のこと、話したのか?」

聞き取れなかったと思ったのか、先輩は質問を変えてきた。
でも、それは全く身に覚えがないとは言い辛く……

「……」
無言という、ほぼ認めてしまった結果となった。

「言ったのか?」
「な、なんで、そんなこと聞くんですか?」
「今日、ずっと緒方さんに見られてた……」
「でも、だからって……」
「身に覚えは他にないぞ。見られてた、って言うより睨まれてたって感じだったな。
バレたんだろ?」
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