コクリバ 【完】
言ってすぐに、「しまった」と思った。
軽い雰囲気だったから、何でも許されると勘違いして、口が軽くなってしまった。

「どういうことだ?」

明らかに先輩の声が低くなる。
誤魔化さなきゃって焦る程、何も言えなくなる。

「何かあったのか?」
「あの……ただの……兄妹ゲンカして……」

今更感満載で取り繕った言葉は、

「何でもめたんだ?」

ベテラン刑事みたいな勘の鋭さ。
先輩の追い詰めるような目を思い出してしまう。

美術室で、モデルとして座っている私を睨みつけたあの目を……

「……兄が、途中で、いなくなって……中山さんと、帰りました……」

あの目の前では逆らうことなんてできない―――

たどたどしい答え方になってしまったけど…だけど、それだけで終わっていないと、どうして分かったのだろう。

「……で?」

その先まで答えるように促された。

「……で?」
「それだけでケンカはしねぇだろ」
「あの……中山さんに……」
「なんだよ」
「あの……」
「……キスでもされたのか?」
「いえ!それはないです」
「じゃ、何されたんだよ」

もう無理。逃げられない。

「……告白、されました……」
「……」

何も聞こえない。
無機質な機械の奥からは何の音もしない。

やっぱり本当のことなんて、答えなければ良かった。

すぐに言ったことを後悔し、目を閉じ、うな垂れている私の耳に次に届いた音は、
小さなため息だった。
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