コクリバ 【完】
「はぁ……で?」
「で?」
「なんて答えた?」
「あの…ごめんなさい、って……」
「だろ?」
「え?」
「だから、言っただろ?
ペンダントなんて貰ってんじゃねーよ」
「……はい…」
「明日は空けとけよ」
「はい…って、え?明日?」
「行きたくねーのかよ。夏祭り」

突然過ぎる話題の変わり方に、私の理解力がついて行けず、

「あの…さっきのは…許してもらえるんですか?」
「中山さんの件か?許すわけねーだろ。明日は覚悟して来い」

希望的観測だろうけど、そう言った先輩の声はなんだか楽しそうで、中山さんのことは何の問題もなかったんだと安心した。

「はい!」

だから、私も弾むように答えてしまった。

でも、答えた後で思い出した―――

「あー!明日は風邪をひく予定でした」
「は?」

先輩が片眉を下げているところが容易に想像できた。
だから中山さんに説明した時よりももっと細かく、誰が何と言ったとかまで説明した。

「なので、明日は歩き回れないんです」
「……最初っから、あんな人ゴミの中、誰が行くかよ。
反対側だ。川、挟んだとこだ」
「でも……見つかったら……」
「俺が来いっつってんのに?」
「…えっ…」
「中山さんのこと、正直に話した褒美をやるよ」
「あのっ」
「来んだろ?」
「……はい。行きます」

私はなんて意志が弱いんだと思う。

「7時に、反対側な。
あ、それから、この携帯は兄貴のだから。
掛けてもいいけど、兄貴が出るぞ」

じゃな。
そう言い残して、通話は切れた。

何も聞けなかったし、最後は返事も出来なかった。

ただ先輩が楽しそうなのは分かった。
私は、ついていけてない感たっぷりだったけど。

時間が経過するのと共に、明日はデートだと徐々に認識してきた。

しかも夏祭りデート。

これも彼氏ができたら、やりたかったリストに入っている事案。

私は慌てて、着ていく服を選び始めた。

そうして、先輩の一言で、兄に裏切られて落ち込んでいた気持ちも、忘れられた。
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