コクリバ 【完】
翌日、
前の週に買ってもらった、私の中では一番の勝負服のミニスカートを着て、前からも後ろからも鏡で何度もチェックを入れ、よし!と気合を入れてから玄関に向かった。

同じ日に買ってもらった真新しいサンダルを取り出し、玄関に座って履こうとした途端…

「出かけるのか?」
兄の声がした。

家の中にいるとは思っていなかったから、一瞬、後ろを振り返りそうになったけど、私はそのままサンダルを履いた。

「おい」

兄の声が大きくなった。

だから急いでサンダルを履き、兄に捕まる前に家を出ようと立ち上がった。

「誰と行くつもりだ」

兄はどこにとは聞かなかった。
行くところは分かっているから、誰と一緒なのかを聞こうとしている。
でもその声の調子は明らかに低くて……おそらく今日、私が夏祭りに行けない理由を知っているんだと思った。

「……」

私は、何も答えないで、足早に玄関から出ていった。

ドアを閉める時も、兄の視線を感じたけど、そのまま兄を見ることもないままドアを閉じた。

絶対に中山さんから聞いてる。

中山さんが私を夏祭りに誘うことも、それを私が断ったことも、断った理由も、兄にはバレているんだと感じた。

もう兄は、私の味方ではなくなったんだと……

怒りと、寂しさを、同時に感じて、足早に祭り会場に向かった。


賑やかな音楽が遠くから聞こえ出した。
浴衣を着てお祭り会場へと急ぐ人たちが、どんどん増えていく。

私も、来年は浴衣を着ようかな。

下流の川沿いのグラウンドで毎年行われる夏祭りは、私の住んでいるところではかなり大きなイベントで、
小さな頃は楽しみにしていて、よく兄たちと行っていた。

それなりの人出もあり、一応 花火も上がる。

でも、今年は―――
初めて、対岸の方を歩いていた。

祭りのメイン会場のグラウンドの川を挟んで反対側の対岸は、ほとんど人がいないのかと思ったら、それは大間違いで、あちらこちらにカップルがいた。
それどころか、花火の打ち上げ場所に近いこちら側を狙っての家族連れまでいる。

毎年、あっちの賑やかな方しか知らなかった私は、大人っぽい、ツウな楽しみ方を知ったようで、心が弾んだ。
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