コクリバ 【完】
川原の土手沿いにある階段に座って待っていると、遠くの方に背が高い人影を見つけた。
その影が近付いてくる度、私の心拍数も上がっていく。

「よぉ」

やっぱり練習にでも行くような格好でやってきた高木先輩はその手に持っていたビニール袋を私にくれた。

「なんですか?」
「たこ焼き」

二人で並んで土手に座って、先輩が買ってきてくれたたこ焼きを、熱くてハフハフしながら食べた。
それだけで楽しかった。

贅沢を言えば、一緒に買いに行きたかったけど、先輩はそういうのが嫌いだと思っていた。
そうやって私と二人で歩いているのを、誰かに見られたくはないんだと……

「奈々。あっち行きたいか?」
「いえっ。いいです」
「あっそ」
「……先輩は行きたくないんですよね?」
「あぁ。人が多いのは歩きづらいからな。
だけど、おまえが他のも食べたいなら、あっち行ってやってもいいぞ」
「本当ですか?」
「行きたいのか?」
「はい。あ、でも……今日は風邪で……」
「じゃ、来年な」

来年も一緒に来よう、ってことですよね?

「はい!」

嬉しさのあまり声が大きくなってしまい、先輩に笑われた。
それでも良かった。

来年は浴衣を着て、手を繋いで、屋台の中を先輩と歩きたい。
できればその次の年も、そのまた次も……


陽が沈んで、辺りがかなり暗くなりだした。
土手を歩く人も少なくなり、私たちのように土手に座って花火が打ちあがるのを待っている人の影が、転々と見える。

私たちは、静かに話をした。
笑う時も「ふふ……」という感じで……

対岸の賑やかさとは対照的だった。
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