コクリバ 【完】
しばらくしてともちゃんが飲み物を買いに行くと、バスケ部員二人に捕まっていた。
助けに行こうかと迷ったけどその場の椅子に座って話し出したので、知り合いなんだと思った。

もうひと泳ぎしてこようかな

ゆったりと25mプールを泳ぎきる。
久しぶりだから数往復で簡単に息が上がってしまう。

プールの端で立ち止まって休んでいると、次の人が来たから場所を開けた。
他のプールでは楽しそうに親子連れが遊んでいる。
スライダーに何度も並ぶ子供もいた。

「大丈夫なのか?」

不意に横からそんな声がして首だけを向けると、ゴーグル姿の男子高校生。
誰だか分からずにじっと見ていたら、男子高校生はゴーグルを上げた。

「あぁ。吉岡か。分からなかった」

プールの淵に寄りかかり、吉岡も休憩するらしい。

「泳いでて大丈夫か?」
「え?」

何が?
何のことだか分からずに、辺りをキョロキョロ見回してしまう。

「風邪だよ。治ったのか?」
「あーうん。もう治った。すっかり、綺麗に……」

忘れてた。

「そうか。良かったな」
「あ、うん。ごめんね、夏祭り行けなくて……」
「いいよ。別に……」

チクリと左胸にトゲが刺ささる。

「吉岡。一人で回ったの?それとも彼女とか呼んで?」

吉岡が一瞬私を睨むから、触れちゃいけないことだったのかもしれない。

「いねーよ。そんなん」

え……「いる」って言ったよね?
コクリバでそう言われから失恋したのに……
もしかして、別れたとか?

慰めようかと言葉を探していたら、吉岡がまっすぐ私を見ている。
その目は見たことないくらいに真剣で、何かを語ろうとしていて……

「そ、そうなんだ。あー、じゃ、私、泳いでくる。もうね。けっこう休んだから…じゃ、お先」

逃げるようにプールの壁を蹴って泳ぎ出した。


吉岡の目が怖い。
< 164 / 571 >

この作品をシェア

pagetop