コクリバ 【完】
「じゃ。私、売店行ってくるね」

絢香にそう告げて、パーカーを羽織っていると、

「うん」
「おう。早く行ってやれ」
絢香とオサムッチが同時に答えた。

行ってやれ?

その言葉に首を傾げて売店に目をやると、そこにはすでに吉岡が立っている。
オサムッチはなんか誤解しているようだ。

「競争して……」

勝ったからジュースを奢ってもらうだけ、っていう言葉は言えなかった。
もうオサムッチは絢香の方に向き直って、すっかり二人の世界に戻っていて、オサムッチの語るなんでもない話に、絢香はオーバーアクションじゃない?ってくらいのリアクションを取っている。

高木先輩に会いたくなった。
二人でプールに来てたら、どうしていただろう。

ぺたぺたと売店に行くと、吉岡が笑って待っていた。

「あの二人にアテられた?」
「うん。すっかり二人の世界」
「だろ?周りは疲れるけどな」

そう言って吉岡は歯を見せて笑っている。
久しぶりに見た吉岡の本気の笑い方。
この人にはずっと笑っていてほしいって素直に思える。
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