コクリバ 【完】
二人で売店に並んでいるとバスケ部員数名がやってきて、吉岡がからかわれていた。
どうやら私もバスケ部のファンでプールに来たと思われているらしい。
体育館の覗きの常習犯だから、違うと言っても説得力がないか。

そのうち、「二人は付き合ってるのか?」とか「もうしちゃったのか?」なんてとんでもない方に話がいくから、私は苦笑いでそこに立っていた。
吉岡も最後の方は面倒そうで、否定もしないで軽く流している。
結局、二人ともかき氷を買って、そそくさとそこを離れた。

かき氷を手にスタスタと前を歩く吉岡について行くと、吉岡は自分の場所にも戻らないようだし、絢香たちがいる場所からも離れた方へと歩いて行く。

どこに行くんだろう。
不安になりながら歩いていると、スライダーのあるプールの後ろ側へと回り込んで行く。

メイン通路から見えにくいそこはちょっとしたテントの下にベンチが数個おいてあるだけで誰もいなかった。

吉岡はその中の一つのベンチの端に座った。隣りを一人分空けて。

私に座れってことだろうなとは思ったが、さっきからかわれたばかりというのもあって、素直に吉岡の隣りに座る勇気はなかった。
吉岡のベンチを通り過ぎてその後ろにあるベンチに座ると、チラリと見ただけで吉岡は何も言わなかった。

それからしばらくそこにいた。
かき氷を食べ終わっても、吉岡の髪が乾ききっても、どちらもプールに戻ろうとは言わなかった。
時々、一人一台ずつ使っているベンチに寝転がりながら、喋ったり、ぼんやりしたりしていただけ。

テントの隙間からは真っ青な空が見える。蝉の鳴き声や、子供たちのはしゃぐ声も聞こえる。
寝転がった身体を風が通り過ぎていく心地良さに瞼が閉じる。
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