コクリバ 【完】
「もうあと少しで完成だから」

市原先輩に促され、私はモデルとしての定位置に着いた。

こうやって市原先輩の前でモデルをするのはもうすぐ終わりなんだ、そう思うと静けさの中に聞こえてくる先輩の筆の音が切なく聞こえてくる。

初めての時は緊張して、ポーズなんて取れなかったのに。

私はモデルを始めてからのことを思い返していた。
高木先輩と初めてまともに話したのもこの格好の時だった。

独特の絵の具の匂いのする美術室で、私は思う存分空想を繰り広げていた。

どのくらいそんな静かな時間が続いたのだろう。
それは突然だった―――

ガラッ、バン!

静寂を破る大きな音に身体がビクリとなる。

激しく鼓動を刻む胸を押さえながら市原先輩を見ると、先輩も驚いた表情で入口の方を見ていた。
どうやらドアが乱暴に開けられたらしい。

「なんだおまえか……」

もしかしたら高木先輩が来たのかもしれない。

「もっと静かに開けろよ」

だけど、入ってきた人は何も話さない。

「おい、どうした?セイヤ…」

市原先輩が言い切る前に、衝立の横から高木先輩が現れた。

菊池自動車の茶色のツナギ姿で、ポケットに手を入れたまま真っ直ぐに私を見ている。
その目はまるで睨んでいるかのようで……
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