コクリバ 【完】
ガン、と激しい音を立てながら近くにあった椅子を蹴り飛ばし、グングンと大股で私の方へ歩いてくる高木先輩。
いつもの余裕の表情はどこにもない。
先輩に会えて嬉しいはずなのに、私の身体は後ろに下がろうとしている。
高木先輩は私の前で立ち止まると、一度じっくり私を見ておもむろにしゃがんで視線を合わせてきた。
「おい。セイヤ……」
市原先輩の心配そうな声も耳に入らないらしい、高木先輩は真っ直ぐに私の目を見ている。
その責めるような視線に耐えきれずに、つい視線を逸らして俯いてしまった。
高木先輩は小さなため息を吐いたあと、
「吉岡に彼女ができたらしいな」
なんの脈略もなくそう言いだした。
「吉岡の……彼女ですか?そうなんですか……」
「先週、プールに一緒に行ったそうだ」
「はぁ」
先輩が怒っているのはその口調で分かる。
でも何に対して怒っているのか、なんで吉岡の話が今必要なのか、全く想像できなかった。
「毎年恒例のプール練習の日だ」
「……」
「バスケ部員全員で行く日だ」
「あぁ……」
あの日のことだと分かった。
けど、吉岡の彼女なんていたっけ?
声には出さなかったけど、私は首を捻った。
いつもの余裕の表情はどこにもない。
先輩に会えて嬉しいはずなのに、私の身体は後ろに下がろうとしている。
高木先輩は私の前で立ち止まると、一度じっくり私を見ておもむろにしゃがんで視線を合わせてきた。
「おい。セイヤ……」
市原先輩の心配そうな声も耳に入らないらしい、高木先輩は真っ直ぐに私の目を見ている。
その責めるような視線に耐えきれずに、つい視線を逸らして俯いてしまった。
高木先輩は小さなため息を吐いたあと、
「吉岡に彼女ができたらしいな」
なんの脈略もなくそう言いだした。
「吉岡の……彼女ですか?そうなんですか……」
「先週、プールに一緒に行ったそうだ」
「はぁ」
先輩が怒っているのはその口調で分かる。
でも何に対して怒っているのか、なんで吉岡の話が今必要なのか、全く想像できなかった。
「毎年恒例のプール練習の日だ」
「……」
「バスケ部員全員で行く日だ」
「あぁ……」
あの日のことだと分かった。
けど、吉岡の彼女なんていたっけ?
声には出さなかったけど、私は首を捻った。