コクリバ 【完】
「奈々。とぼけるつもりか?」
「え?何をですか?」
「吉岡の彼女は、他の奴らと違ってガンガン25mプールを泳いでいたらしいな。ゴーグルまでかけて」
「……っ」
息が止まった。
あの日、ガンガン泳いでいたのは私一人。
他のファンの子たちは髪も濡れてなくて、もちろん化粧も綺麗なままだった。
「たしか、おまえもプールに行くって言ってたよな。先週だったな?」
先輩の左頬が上がっているが、目が笑っていない。
「……」
「バスケ部が行くからプールに行ったのか?」
私はふるふると首を横に振った。
「知らなかったんです。バスケ部が行く日って」
「じゃ、同じ日だったんだな?」
そう言った先輩がグイッと私の右手首を掴んだ。
「い、痛い……」
「セイヤ。何してる!」
私の声も市原先輩の声も無視して、高木先輩が私の顔を引き寄せた。
「いい加減にしろよ。奈々」
奥歯を噛みしめるように囁かれたその言葉に、私の鼻の奥がツンと痛んだ。
「…うっ……」
「吉岡は彼女と人目も憚らずイチャついてたらしいな。それから二人で消えたんだと。しばらく二人の姿は見かけず、帰る間際に仲良く手を繋いで現れたって……何やってんだ、おまえ」
言葉が出なかった。
ただ首を横に振って否定するしか出来ない。
「誰だよ、吉岡の彼女って。まさかおまえじゃないよな?なぁ。何とか言えよ」
下唇を噛んで俯いた私のあごを取り、先輩が無理やり視線を合わせてきた。
「やめろよ、セイヤ。落ち着けって。奈々ちゃんの話も聞いてやれよ」
「だから、聞いてるだろ!噂の女はおまえなのか違うのかって!」
「落ち着けって」
「サトルには関係ねぇだろ!」
高木先輩の口調はどんどん荒々しくなり、私の目からは堪えきれなかった涙が落ちた。
「え?何をですか?」
「吉岡の彼女は、他の奴らと違ってガンガン25mプールを泳いでいたらしいな。ゴーグルまでかけて」
「……っ」
息が止まった。
あの日、ガンガン泳いでいたのは私一人。
他のファンの子たちは髪も濡れてなくて、もちろん化粧も綺麗なままだった。
「たしか、おまえもプールに行くって言ってたよな。先週だったな?」
先輩の左頬が上がっているが、目が笑っていない。
「……」
「バスケ部が行くからプールに行ったのか?」
私はふるふると首を横に振った。
「知らなかったんです。バスケ部が行く日って」
「じゃ、同じ日だったんだな?」
そう言った先輩がグイッと私の右手首を掴んだ。
「い、痛い……」
「セイヤ。何してる!」
私の声も市原先輩の声も無視して、高木先輩が私の顔を引き寄せた。
「いい加減にしろよ。奈々」
奥歯を噛みしめるように囁かれたその言葉に、私の鼻の奥がツンと痛んだ。
「…うっ……」
「吉岡は彼女と人目も憚らずイチャついてたらしいな。それから二人で消えたんだと。しばらく二人の姿は見かけず、帰る間際に仲良く手を繋いで現れたって……何やってんだ、おまえ」
言葉が出なかった。
ただ首を横に振って否定するしか出来ない。
「誰だよ、吉岡の彼女って。まさかおまえじゃないよな?なぁ。何とか言えよ」
下唇を噛んで俯いた私のあごを取り、先輩が無理やり視線を合わせてきた。
「やめろよ、セイヤ。落ち着けって。奈々ちゃんの話も聞いてやれよ」
「だから、聞いてるだろ!噂の女はおまえなのか違うのかって!」
「落ち着けって」
「サトルには関係ねぇだろ!」
高木先輩の口調はどんどん荒々しくなり、私の目からは堪えきれなかった涙が落ちた。