コクリバ 【完】

夏休みが瞬く間に過ぎていく。

市原先輩には「あとは一人で集中して仕上げたい」と言われ、私のモデル業は呆気なく終わっていて、部活も夏休みに入り、何の予定もない日が続いた。

だから高木先輩から9時にかかってくる電話だけが唯一の楽しみになっていた。
毎晩ではなかったけど、9時少し前になるとソワソワと落ち着かなかった。

一度だけ夜に呼び出されたこともある。
もちろん「絢香の家に行く」と親に告げて会いに行った。
たくさん話して、たくさん手をつないで、たくさんキスをした。
それだけで舞い上がっていたと思う。

短い夏休みが終わり、2学期初日に教室に入ると、それまでとはどこか雰囲気が違っていて照れくさかった。
日焼けしたり、髪の色が変わったり、みんながどこか変わっている。

私も変わったという自覚がある。
もう子供じゃないという自覚が……

吉岡とは教室で会っても必要なことしか話さなかった。

この頃、私は過剰に男子と話すのを恐れていたと思う。
何か話さなきゃいけなくても、なるべく他の子に伝えてもらったり、中学の頃の友達に誘われても必ず誰が来るのか聞いてから行った。

その高木先輩は2学期になってもバイトを続けるらしい。
となると私と会う時間もなかったから、学校で見かけることに執念を燃やしていた。
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