コクリバ 【完】
歴史あるその美術展は入賞することも難しく、入賞した作品は全国的に有名な美術館にしばらく飾られる栄誉ある賞。

「もう、奈々ちゃん、泣かないで」

嬉しかった。
自分のことのように嬉しかった。
市原先輩の切ない想いが認められたようで、やっぱり私はあの絵が好きだと思った。

「奈々~」
隣りを見ると絢香も涙ぐんでいる。
「市原先輩すごいね」

美術室に市原先輩は来なかったけど、私たちは勝手にお祝いと称してジュースで乾杯をした。

もう部活なんてやってる余裕はない。
みんなが自分のことのように喜んで、市原先輩の絵がどうだったか話した。

だれもその絵を見ていないようだったけど……

主役がいないのに大盛り上がりだった美術部員は勢いで市原先輩にお祝いの電話やメールをみんなで送った。
けど、先輩は忙しいのか一度も誰にも返信することはないようだった。

私が送ったメールにも返信はなかった。
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