コクリバ 【完】
翌日、起きるとすぐに朝刊を取りに行き、何枚かめくったところにお目当ての写真を見つけた。

市原先輩が絵をバッグにして照れくさそうに微笑んでいる写真。

見出しには“若き才能、見事に開花。本県高校3年、市原悟君(18)が初挑戦で華々しく入賞”という文字が大きく書いてあり、その記事も市原先輩のことを褒めちぎっていた。

高校生がこの絵を描いたということに驚愕した。
切なさと妖艶さがこうも見事に融合する絵はこれまでに見たことがない。
10代の真っ直ぐな眼でしか見つけられない人の心の深淵を見たようだ。
その絵は少女が女になった瞬間の美しさを蝶になぞらえていて、掴んではいけない儚げなエロティシズムがそこにあった。

え?

新聞の記事を読み進めていくうちに感じる違和感。
もう一度市原先輩が写っている写真を見て気付いた。

あの日、私が見せてもらった絵と雰囲気が違う。
私が見た時は淡い色調で、光り輝くような絵だったけど、新聞に載っている絵は、暗くて見ていて悲しくなるような感じがした。

急いで市原先輩に電話をしたけど、繋がらない。

どうしてもこの絵が見たくなり、電車で2時間以上かかる東京の有名美術館に行くことにした。
< 184 / 571 >

この作品をシェア

pagetop