コクリバ 【完】
電車を乗り継ぎ、一人でこんなに遠くまで来たのは初めて。
それでも乗り換えが分からないなんて言ってる余裕はない。

確かめたい―――

ただその一心で、都心の有名美術館を目指した。

さすがに有名な美術展ということもあって、中にはたくさんの人。
彫刻や写真の入賞作品が飾られる中、私は絵画のコーナーを必死で探した。

多くの人が談笑しながら行き交う間を縫うように進む。
暑さと緊張で汗が止まらない。
早歩きで移動しているせいなのか、先輩の絵と対面するからか分からないけど、心臓の鼓動がドキドキとうるさい。

他よりも人が多い場所に入ると、そこが絵画のコーナーだった。

左の中央に多くの人の注目を集めている絵があって、恐る恐る近寄ると―――、

やっと市原先輩の絵を見つけた。

やっぱり美術室の中で見せてもらった時とは明らかに違う。
漂う切なさは同じだけれど、根底にある何かが違う―――

淡い色調だった背景は、紺色が濃淡をつけて広がり、まるで夜が明ける瞬間を思わせるように変わっていた。
背景が濃くなったせいで、その前にいる少女の肌の白さが余計に際立ち、エロティックな雰囲気が漂っている。

以前のとは違ってその裸足の足がくっきりと描かれていて、纏っているシーツが太ももが見えそうなところまでめくれ上がっていた。
少女の少ししか見えない表情が、気怠いような切ないような、何とも言えない悲しげな表情に見える。

でも一番大きく変わったところは以前は背景だったところ、少女の背中の部分だろう。

そこに薄い羽が描かれていた。

よく見ないと分からないくらいの、妖精の羽やトンボの羽のような薄い羽で、触れると今にも破れてしまいそうな儚い羽。

その絵が何かを叫んでいるようで、見ていて胸が締め付けられた。
私の眼からは気付かないうちに涙が流れていた。
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