コクリバ 【完】
月曜日の朝、定例の全校朝礼で数件の連絡事項を言ったあとに、校長が嬉しそうに声を大きくした。

「それでは次に美術展に於いて素晴らしい成果を出したものを表彰したいと思います。3年4組市原君、前へ」

市原先輩の姿が舞台下に見えると、ザワザワと体育館が騒がしくなる。
ほとんどが女の子で、嬉しそうな笑顔。
そこで市原先輩の絵が賞を取ったいうことと、それまでの努力の大切さが長々と話された。

努力?
違う。市原先輩の絵は努力とかではない。
先輩の苦しい恋心が生んだ芸術だ。

私は校長より自分の方が芸術に詳しいと思い込んでいた。

先に出ていく3年生集団の中に、高木先輩の姿を見つけた。
独特の気怠い歩き方、遠かったけどすぐに分かった。

一生懸命に首を伸ばして見ている私を、一瞬、先輩が気付いたように思えた。

姿勢がよくなった高木先輩が、体育館の一番端に並んでいた私を捉えたような……
その直後、先輩の左頬が微かに上がった。

高木先輩は私を見つけてくれたんだと確信した。
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