コクリバ 【完】
それから数日後のことだった。
学校中を揺るがすスキャンダルが起こった。

いや、起こったと言うより、起こされた。
もっと言うなら、貼りだされた

市原先輩の『羽化』と題された絵の写真が、
❝祝・3年4組市原悟君 美術展入賞❞
の文字と一緒に、正面玄関入ってすぐの自販機やベンチが置いてあるホールと呼ばれるところに貼りだされたのだ。

その絵のことはすぐに知れ渡り
普段そんなにホールには用事がなく自販機にジュースを買いに行くくらいしか立ち寄らない場所なのに、次から次に生徒が見に来るようになった。

それは市原先輩の芸術的な絵が見たいからではなく……

「なに、これ」
「いやらしいー」
「これってさ……」
「ヤった後だよな」
「あぁ。絶対、後だな」
「市原さんがそんなことするなんて……」
「この女誰だよ」

絵を見ながらニヤニヤと噂話をしている集団から逃げるようにその場を去った。

程なくして、
―――『市原とヤったあと』―――
そんな悪戯書きが、題名の下に書かれた。


何が芸術だ。
何が儚い美しさだ。
結局、みんなが見たいのは スキャンダルの渦中の女。
みんなが知りたいのは ヤったかヤってないか。

芸術や、エロティシズムなんて関係ない。
市原先輩がヤった直後の女を描いた。

そういうことだけが、全校生徒の興味を集めていて……

次に来るのは、当然、描かれた女探し
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