コクリバ 【完】
少しずつ新しい制服にも慣れてきた高1の6月
「緒方(おがた)」
帰り支度でざわついていた教室の中で、私を呼ぶ声だけがはっきり聞こえたのを覚えている。
顔を上げ、周りを見ると、同じクラスの吉岡がじっとこっちを見ている。
二重の目が特徴的で整った顔立ちのバスケ部男子。
「何?」
久しぶりに話しかけられたことが嬉しいくせに、素っ気なくを装って答えた私。
吉岡は少しの間を置いて、私の机の前まで歩いてきた。
やけにゆっくりに見えるその動作に、なんだか落ち着かない。
どこがとは言えないけど、これまでとは雰囲気が違う。
「明日の朝イチ、研修棟の前で待ってるから」
私にだけ聞こえるように小さい声で、目の前の男は呟いた。
「ぇ……」
研修棟の前でって……言った?
考えがまとまらない。
でも、それって、そういう意味だよね?
噂に聞くあの場所のことだよね?
いろいろ聞きたいのに、声が出ない。
「渡したいものがあるから」
吉岡が慌てて言う。
そっか、渡したい物か……でもなんであの場所で?
吉岡の方を見ると目が合った。
ドキリと胸を打つ鼓動。
綺麗な二重の目が私を見てる。
「あ……」
何を言いたいのかまとまってないのに、開いた口からは無意味な音しか出なくて、
「来れんだろ?」
吉岡に答えを促され、
「うん……」
ただ首を動かすしかできなかった。
頬が熱い。
吉岡はそんな私に満足気に肯いて走り去っていった。
これがコクリバへの扉が開いた瞬間だった。
「緒方(おがた)」
帰り支度でざわついていた教室の中で、私を呼ぶ声だけがはっきり聞こえたのを覚えている。
顔を上げ、周りを見ると、同じクラスの吉岡がじっとこっちを見ている。
二重の目が特徴的で整った顔立ちのバスケ部男子。
「何?」
久しぶりに話しかけられたことが嬉しいくせに、素っ気なくを装って答えた私。
吉岡は少しの間を置いて、私の机の前まで歩いてきた。
やけにゆっくりに見えるその動作に、なんだか落ち着かない。
どこがとは言えないけど、これまでとは雰囲気が違う。
「明日の朝イチ、研修棟の前で待ってるから」
私にだけ聞こえるように小さい声で、目の前の男は呟いた。
「ぇ……」
研修棟の前でって……言った?
考えがまとまらない。
でも、それって、そういう意味だよね?
噂に聞くあの場所のことだよね?
いろいろ聞きたいのに、声が出ない。
「渡したいものがあるから」
吉岡が慌てて言う。
そっか、渡したい物か……でもなんであの場所で?
吉岡の方を見ると目が合った。
ドキリと胸を打つ鼓動。
綺麗な二重の目が私を見てる。
「あ……」
何を言いたいのかまとまってないのに、開いた口からは無意味な音しか出なくて、
「来れんだろ?」
吉岡に答えを促され、
「うん……」
ただ首を動かすしかできなかった。
頬が熱い。
吉岡はそんな私に満足気に肯いて走り去っていった。
これがコクリバへの扉が開いた瞬間だった。