コクリバ 【完】
「でも、それだと、先輩の好きな人に迷惑がかかるのでは?」

小さくつぶやいたのに市原先輩にはちゃんと聞こえたようで、ゆっくり後ろに下がると私から視線を逸らした。

「いないけど、そういうの……」

唇に薄く笑みを作っているけど、哀しい目をしている。

ウソだ

言いかけたけど、すぐに先輩の声に遮られた。

「高木には俺から言っておくよ」

名前を聞いただけで、胸が苦しくなる。

「あいつ、何か勘違いしてるみたいだね。こんなに奈々ちゃんを泣かすなんて……ちゃんとあいつと話した?」

小さく首を横に振った。

「連絡もこないの?」

黙って俯いた。

胸をナイフでえぐられてるよう。
痛みをこらえることに必死で。

「そっか……誤解は解かなきゃね。俺が言ってあげるから、奈々ちゃんは待ってて。あいつだってちゃんと話せば分かってくれると思うよ」

市原先輩の声が優しくて、本当に心配してくれてるんだと思って、絢香以外誰もが冷たい中、この優しさに頼りたくなる。

「大丈夫だよ、奈々ちゃん。俺に任せて……」

ふんわりと包み込むように心配してくれる市原先輩は、やっぱり優しい部長なんだと思う。
連絡が取れなかったのも、何かの事情があったんだろう。

私は市原先輩に頭を下げた。

「……お、願い、します……」
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