コクリバ 【完】
「歩けないんだろ?乗れよ」
今でも先輩を想っている―――という私の必死のアピールはまるで伝わらないらしい。
先輩の声は変わらずに冷たい。
なのに、腕を掴んで引き寄せるから、そのまま先輩の自転車の後ろに乗ってしまった。
「しっかり掴まれ。落とすぞ」
冷たいままの声で吐き出される言葉は、優しいと思う。
黒いトレーニングウエアの腰のところに手を伸ばし、見えないのをいいことに、先輩の背中に額を付けると、また涙が出た。
ゆっくりと自転車は進む。
宙ぶらりの左足は痛んだけど、ずっとこのままでいたかった。
高木先輩の温もりを全身で感じていたかった。
先輩の自転車の後ろからだと、いつもの景色がまるで違った場所に感じられたから。
だけど幸せな時間はそう長くは続かない。
不意に自転車が止まって顔を上げると、そこは既にうちの家の前だった。
もう少し乗っていたかったけど先輩が腕を掴んで降ろそうとしているから、降りない訳にはいかない。
「鍵は?」
先輩が右手を出して待っている。
「…カ、カバン、の、ファスナーの……」
言い終わる前に鍵は出され、高木先輩がうちの玄関の鍵を開けて私のカバンを中に入れてから戻ってきた。
先輩の頭が一瞬下がったと思った時、私の身体が倒され地面から離れた。
今でも先輩を想っている―――という私の必死のアピールはまるで伝わらないらしい。
先輩の声は変わらずに冷たい。
なのに、腕を掴んで引き寄せるから、そのまま先輩の自転車の後ろに乗ってしまった。
「しっかり掴まれ。落とすぞ」
冷たいままの声で吐き出される言葉は、優しいと思う。
黒いトレーニングウエアの腰のところに手を伸ばし、見えないのをいいことに、先輩の背中に額を付けると、また涙が出た。
ゆっくりと自転車は進む。
宙ぶらりの左足は痛んだけど、ずっとこのままでいたかった。
高木先輩の温もりを全身で感じていたかった。
先輩の自転車の後ろからだと、いつもの景色がまるで違った場所に感じられたから。
だけど幸せな時間はそう長くは続かない。
不意に自転車が止まって顔を上げると、そこは既にうちの家の前だった。
もう少し乗っていたかったけど先輩が腕を掴んで降ろそうとしているから、降りない訳にはいかない。
「鍵は?」
先輩が右手を出して待っている。
「…カ、カバン、の、ファスナーの……」
言い終わる前に鍵は出され、高木先輩がうちの玄関の鍵を開けて私のカバンを中に入れてから戻ってきた。
先輩の頭が一瞬下がったと思った時、私の身体が倒され地面から離れた。