コクリバ 【完】
「俺には言いたくないんだな」

そう言うと高木先輩は背中を向けた。

「先輩……!」

このまま帰してしまったら、もう話す機会なんてない。

咄嗟に追いかけようとしたのに、足に激痛が走り、

「うっ」

思いきり前に倒れてしまった。

やっぱりダメなんだ。
私の話なんかもう聞いてもらえない。
それほど嫌われたんだ。

静かな部屋に聞こえるのは時計の秒針の音だけ。


しばらく床を見ていた私の視界に、大きな手が見えた。
顔を上げると先輩がめんどくさそうに手を伸ばしている。

高木先輩……

節ばった長い指を掴み自分の胸に引き寄せ、もう一度先輩の目を見た。
大好きな切れ長の瞳。

「なんだ」

冷たく放たれた声にひるんでなんかいられない。

「…あ、あの……違うんです」
「……」
「あ、あれは私じゃ……」

ない―――と言うと嘘つきだと言われる。
それは菊池雅人に散々言われたんだった。

「なんだ」
「違うんです」
「何が違う」
「私、そんなことしてません」
「……」
「あの、市原先輩から聞いてないですか?あの絵に……」
「聞いたよ」
「じゃぁ……」
「処女は大変だったって……」

え……

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