コクリバ 【完】
顔を持たれ、何度も何度も唇を奪われる。

―――違う―――

先輩のキスはこんなんじゃない
先輩のキスはもっと優しくて、好きだって気持ちが溢れてて、そんな大好きなキスなのに
こんな痛くて、冷たいキスは、知らない

激しく角度を変えられ、強く吸われ、舌も奪われ

「っやっ……」

離れた時に、血の味がした。

高木先輩は私を突き飛ばすように離れると、立ち上がり腕で自分の唇を拭った。
まるで汚い物でも口にしたみたいに……

そして振り返りもしないでそのまま部屋を出て行った。

「待って……」

追いかけようとしたのに、聞こえてきたのは玄関が乱暴にガシャンと閉まる音。

「う…うぅ……先輩っ……」


冷たいフローリングの床に突っ伏して泣いた。

泣いても泣いても涙は止まらず、張り裂けてしまいそうなくらい胸が痛んだ。

「先輩、先輩、先輩……」

どんなに呼んでも高木先輩は戻って来ない。

あんなに優しく名前を呼んでくれたのに
二人でいる時間がどれだけ大切だったか……
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