コクリバ 【完】
「良いお兄さん」

語尾にハートが付きそうな声で、絢香とともちゃんがシュークリームを頬張っている。

「ん!美味しい」
「んー!このクリーム最高」

そんな二人の声に負けて、私もシュークリームを食べた。

兄にしてはファインチョイスのシュークリームは、皮のパリパリ感とバニラビーンズ入りのカスタードクリームが絶妙な美味しさ。

「ねぇ、奈々。一度、高木先輩とちゃんと話してみたら?」

シュークリームで幸せ気分だったところに、絢香がポツリと話し出した。

「やっぱり、私は好きじゃない人にはキスしないと思うんだよねー。それに年が明けたら先輩たちもう学校来なくなるよ。3学期は3年生ほとんど来ないって」

途端に胸が詰まって、もうシュークリームは食べたくなくなり箱に戻した。

「このまま高木先輩、卒業しちゃっていいの?」

卒業―――

もうすぐ先輩は卒業してしまう
時間はたっぷりあるような気がしていたけど、本当は残された時間なんてそうないんだ

「実は、私も、高木先輩は嘘ついてないって、思ってる。そう思いたいだけなのかもしれないけど……」

自信なく小さな言葉を吐いた私に、

「奈々ちゃん。私もそう思った。高木先輩がそんな冷たい態度だったのは、嫉妬なんじゃない?」

ともちゃんが優しいトーンで話すから、その言葉にすがり付きたくなった。

「うん……」
「奈々」
「奈々ちゃん」

「ありがとう」

二人がこの日来てくれて、本当にありがたいと思った

それから私たちは日が暮れるまでたくさんの話をした。
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