コクリバ 【完】
だらだらとテレビを見ながらメールを打ってた時に、兄から着信があった。

「あ、はい」

しまった。通話を押したらしい。

「気にするな……大丈夫だから……」
兄は私が電話に出ていることに気が付かないで、電話の向こうで他の人と話している。

「おーい。間違いなら切るよー」
耳から携帯を外し、切ろうとしたとき、

「奈々!」
兄が気付いた。

「うん」
「おまえ、まだ家だろ?」
「え?なんで?」

この後に続く言葉はだいたい予想がつく。
おそらくあまり良いことではないって

「バッシュ持ってこい」
「は?」
「バッシュだ。階段下の物置にあるやつ」
「えー」
「黄色い紐のやつ。なければなんでもいいから綺麗そうなの持ってきてくれ」
「忘れたの?」
「いや……ちょっとな。事故だ」

歯切れの悪い兄の言い方が怪しい。

「忙しいんだけど」
「嘘つけ。どうぜだらだらテレビ見てるだけだろ?」

当たってるだけにカチンとくる。

「……」
「なんか買ってやるから、頼む。急いで来い」

最近アルバイトを始めて羽振りの良い兄は、物で私を釣ろうとする。
それもなんだかイヤだ。

「……うん」
釣られる私も私だけど……

「部室じゃなくて研修棟の方だ。そっちにいるから」
「え?わかんない」
「取り敢えず来い。着いたら電話しろ」

何故か焦っている兄に、早々に電話は切られてしまった。

そんなに急いでいるのなら、取りに来ればいいのに
なんて悪態をつきながらも言われた通りにしたのは、やっぱり高木先輩のことが気になってるからだと思う。

先輩の姿を少しでも見られるかもしれない。

微かな期待が私を動かす。
< 237 / 571 >

この作品をシェア

pagetop