コクリバ 【完】
「あ、兄に忘れ物頼まれて……OB会に来てるはずなんだけど……どこにいるか知らない?」

吉岡は無言で、怒ったような、無表情のような、そんな感情が読めない顔つきで私を見下ろしたまま。

「じゃ、自分で探すから、いいよ」

早くこの場を立ち去りたい。

吉岡の左側から抜けて行こうとした―――瞬間、グイと左腕を取られ、足がよろめいた。

「なに?」

「こっち」

吉岡は私の腕をものすごい力で掴んだまま、グングン早歩きで校舎の方に向かっている。

場所が変わった?

訳もわからず足を動かすけど、

「吉岡。ちょっと待って。痛い。腕。ちょっと痛いって……」

がっしり握られた腕が痛い。

吉岡の早歩きについていけなくて、転びそうになる。

「待って。待ってって……あ!」

段差でグイと引かれた時に、手にぶら下げていた兄のバスケットシューズを落としてしまった。

「吉岡。落とした。バッシュ。ちょっと!」
「……」

焦る私を完全に無視した吉岡は、どんどん校舎の中へと入っていき、進路指導室と書いてある空き教室のドアをガラリと開けた。

その途端、突き飛ばされるように中へ押され、吉岡は後ろ手にドアを閉めた。

誰もいない教室
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