コクリバ 【完】
「吉岡?…ちょっと待って。怖いって……」

吉岡が睨むような目で真っ直ぐ近付いてくるから、距離を保とうと私も後ろに後ずさる。

私の背中が後ろのロッカーに当たっても、吉岡は近づくのを止めなかった。

「待ってよ!どうしたのか言ってよ。怖いじゃん」

ロッカーに阻まれて逃げ場をなくし、横に逃げようと移動すると吉岡の腕がロッカーを殴りつけるように行く手を阻んだ。

その音にも怯え、反対側に戻ろうとすると、反対側にもガンと吉岡の腕が飛んできた。

ロッカーと吉岡の両腕に逃げ道を断たれた形。

「……」
「……」

吉岡は私を睨んでいる。

心臓が痛いくらいにドキドキ鳴って、もう言葉すらも浮かんでこない。

ただ逃げ道を探した。

「おまえさ……」

吉岡が私を上から見下ろしながら呟いた。
その距離がやけに近い。

「おまえ、誰が好きなんだ?」
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