コクリバ 【完】
本当に彼女たちがいてくれて良かったと思う。
友達がいれば、もう男なんていらない。
それくらい3人でバカな話ばかりしていた。

だけど、もうすぐバレンタイン。
彼氏持ちの女たちはソワソワしだす時期。

少し寂しく思いながらも、あの人のことは考えないように努力した。
幸い、3年生たちはほとんど学校に来ていないし。

久しぶりの部活の日。
いつも通りのユルイ課題は人物のデッサン。

私は絢香とペアになってお互いの顔をスケッチブックに描く。

絢香の目ヂカラのある大きな眼。
そしてピンクの頬がすごく幸せそう。

―――なのに、私は……

イヤだ。
大事な親友に嫉妬してしまう。

人物を描こうとするとその人の内面まで見えて、更には自分の中の見たくない感情まで見えてきて、私は鉛筆を置いた。

「どうした?」
絢香が心配そうに聞いてくる。

「うん。ちょっとね。手が痺れた……」

「力入れ過ぎだよ」
絢香がケラケラと笑う。

「うん。そうだね……」

オサムッチと約束がある、という絢香を見送り、だらだらと片づけをしていた時にふと気付いた。

市原先輩が風景画しか描かなかったのは、そういうことかもしれない。

見たくない自分の感情があったとか、その人物の思惑に気付きたくないとか……

妙に納得した。

本人に確かめる術はないけど、おそらくそうだと思う。

私も、人物を描くのが苦手になったから……
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