コクリバ 【完】
嘘ではない。
言い逃れでもない。
今日は本当にピアノのレッスンがある。

でもそれは夕方からで、絢香の買い物に付き合ってからでも十分間に合う時間。

「そっか、奈々ピアノやり始めたんだったね」
「うん」
「いいなぁ夢があって…私もなんか探そう」

そう言って微笑みあうと私の胸に刺さるトゲ。

「ごめんね。今度は付き合うからね」
「ううん。とも、誘いに行ってくる」
「うん。またね」
「うん、じゃ」

絢香はともちゃんの教室の方に駆けて行った。
その姿が羨ましい。

私にはもう走る元気がない。

とぼとぼとそのまま美術室に向かった。

多くの生徒が帰ってから、家路に着くようにしてたのが癖になってしまった。

ましてや3年生が来てたのなら

たぶん、もう会うことはないだろうけど……
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