コクリバ 【完】
真っすぐに市原先輩を見ていると、先輩は私から視線を逸らす。

「あいつは?」
「自衛隊に行くって聞きました。あれから、変わってなかったらですけど……」
「……」
「……」

美術室で初めて二人が話してるのを見た。
他人が入れない緊張感、その時私は確かにそれを感じてた。

遠くの方から甲高い笑い声が聞こえる。

「あいつをバスケに誘ったのは、俺なんだ」

遠くを見るように語りだす市原先輩。

「中学に入った時に…いや、入る前から俺はバスケ部に入りたかった。あいつは…セイヤは、バレー部に行くとか言ってたよ」

先輩の顔から王子様的な微笑が消えている。

「ガキの頃、あいつの兄貴に憧れててさ。あいつの兄貴がバスケしてるのを見て、俺もやりたいって……セイヤんちに遊びに行ったとき、教えてもらったんだよ。和也さんに…俺たち二人、バスケの真似事だったけど……」
「……」
「俺たちが中学入った時は、和也さんは卒業してて、この高校のバスケ部にいたんだ。だからよくここに覗きに来てたよ」
「…そうですか……」

市原先輩は窓の外を見て黙るからその頃のことを思いだしてるんだと思った。
懐かしい想い出なんだろう。
市原先輩の表情が優しい。
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