コクリバ 【完】
「その頃、美里が一度泣いたんだ。理由を聞いても、何でもないと言うだけで教えてもらえなかった。でも夏休みに入って、和也さんが自衛隊から戻ってきたとき、美里に会いに来た。ここに、そこの体育館に、部活の練習見に来たって顔して!」

「……」

悲痛な市原先輩の叫びに、胸が痛くなる。

もう、いいです。
もう、話さなくていいです―――

「泣いたんだよ、美里が……」

「…や……」

「訳が分からず、逃げる美里を追いかけて理由を聞いたら…」

「…もう……」

「高木先輩が好き…って……」

え?
スッと血の気が引いた。

「俺の前で泣きながら、高木先輩が好きって……」

「……」

トクン、トクン  
徐々に鼓動が早くなる。

「奈々ちゃんが言ったみたいに……」

「…あ……」

「あの日、俺の前で、セイヤに言っただろ?高木先輩が好き…って……」

「…言って……」

「言ったよ。プールの話してて、誰かの彼女になったとかで……」

「……」

「俺の前でね……」

市原先輩が笑っている。

冷酷な目をして、口元が笑っていた。
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