コクリバ 【完】
高木先輩の携帯番号―――

そこにかけたら、先輩と話せるのだろうか……
先輩に、私は裏切ってないと伝えられるのだろうか……

そしたら先輩は、許してくれる?
もう一度、私の横にいてくれる?
「奈々」って低い声で呼んでくれる?


「……いらない」
「メアドは?」
「いらない」
「いいのか?」
「うん。いい」


午後の陽ざしに生暖かい風が吹く。
もうすぐ春が来るんだと告げる、そんな風だった。

吉岡から逃げるように視線を校庭に移すと、溢れる卒業生の中にひと際盛り上がっている集団があった。
低い笑い声が響く。
見たことのある集団。
その中にあの人がいた。

隣りにあの女の人はいない。

あの人は、教室棟の方を空を仰ぐように見ていた。
3年間の思い出を振り返っているのかもしれない。
その横顔が寂しそうに見えるのは、私がそう思いたいから

集団が動き出す。

校門を出て教室棟の陰に消えていく。
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