コクリバ 【完】
リサーチに行った真理子先生が戻ってくる前に、私たちは職員室に集められた。

向こう側に並んでいる真理子先生が目だけで合図している。
大きく目を開き、口をウの形にしながら、整列している先生たちの向こう側から、何度も頷いて合図している。

なんですか?
「……うお……」
全く分からない。


「みなさん、忙しい時にごめんなさいね」

小柄な園長先生が職員室に入ってくるなり、満面の笑みで話し出す。
その横にはさっき友紀奈先生と歩いていた男の人。

「来年度から、副園長を置くことにしました。もう私も歳なので、会議などに行ったりするのが疲れてしまってね」

幼稚園の先生独特のゆったりした話し方で、園長先生は続ける。

「副園長は長男の洋祐が務めます。今はまだ小学校の先生をしているので、もう少ししてからこちらに来てくれます。“ようすけ先生”と園児たちには呼んでもらいましょうね」

園長先生が大柄な男の人に目くばせすると、その人が一歩前へ出た。

「安藤洋祐です。何も分からないので、皆さん方に一から教えてもらわなきゃいけません。面倒をかけますが、皆さんと一緒に園児たちのために頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします」

良く通る張りのある声
堂々として強い雰囲気が、ふんわりとした幼稚園では異質に感じ、どの先生たちも動けないようだった。

「みなさん、どうしました?」

園長先生がキョトンとしている。

「こちらこそ、よろしくお願いします。洋祐先生」

優雅に声を出したのは、やっぱり友紀奈先生だけ。
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