コクリバ 【完】
この店のオリジナルブレンドの珈琲が好きだ。
何より香りが癒してくれるから、落ち込んだ時はいつもここに来る。

ガラスの珈琲サイフォンからコトコトという音が聞こえてくる。

「なんかあった?」
「……ううん」

高校時代の苦しかった恋愛を、今更思い出しても平気なはずなのに、今日は自然とここに足が向いた。
もうとっくに忘れたはずの昔の恋。

「彼氏とケンカした?」
「彼氏とはちょっと前に別れた」
「そう。今回も早かったね」
「そうかな?今回は3か月はもったよ」

実際、裏では何をしているのか今一その正体が掴めないマスターは、私の悩みを良く知っている。

静かな落ち着いた雰囲気が気を許したくなり、つい心の内を話したくなってしまう。

このお店が大繁盛しているのを見たことがない。
経営的に大丈夫なんだろうか、と余計な心配までしたことがあるけど、「この店は趣味だ」と言い切るマスターに今では納得している。
< 293 / 571 >

この作品をシェア

pagetop