コクリバ 【完】
ともちゃんとは、今度二人でスピーチの打ち合わせをするという約束をして電話を切った。
「マスターごめんね。うるさくして……」
「いいよ。誰もいないから」
その自嘲的な言い方にクスクスと微笑み合った。
「友達がね、結婚するんだって」
「そう」
「高校生の頃付き合い始めて、もう5年は付き合ってるの。なんかいいよね。ずっとその人だけって言うのが、赤い糸っぽくて」
「一人の人だけっていうのがいいの?」
「うん」
「そうかな~。俺はたくさんの女の子と付き合いたいな~」
「マスターに言ったのが間違いだったね」
カップの中に残り少なくなった珈琲が、寂しさを煽る。
「奈々ちゃんも、そろそろ本気の恋愛したら?」
カップを持つ手が止まる。
「……してるよ。いつでも本気だよ」
「そう?」
見透かしたようなマスターの返事。
マスターには一度、苦しかった高校時代の恋愛の話をしたことがあった。
それをマスターはまだ覚えているらしい。
「奈々ちゃん」
「はい」
「俺の愛人になりたくなったら、いつでも言ってね」
珈琲を吹きだしそうになった。
「なんで、愛人?マスター結婚してたの?」
「いや」
「じゃ、なんで彼女じゃなく愛人?」
「んー、奈々ちゃんが愛人顔だから」
あはは…と渋い声で笑うマスターを見て思った。
この人、珈琲店を趣味でやってるって本気だったんだ。
人をからかって遊ぶのが本当に楽しそう。
しばらくマスターとおしゃべりをした後、珈琲店を出た。
辺りは真っ暗になっていたけど、気分は上々。
やっぱり寄って良かった。
久しぶりに思い出した高1の頃の記憶を、珈琲で胸の奥に押し込めた。
「マスターごめんね。うるさくして……」
「いいよ。誰もいないから」
その自嘲的な言い方にクスクスと微笑み合った。
「友達がね、結婚するんだって」
「そう」
「高校生の頃付き合い始めて、もう5年は付き合ってるの。なんかいいよね。ずっとその人だけって言うのが、赤い糸っぽくて」
「一人の人だけっていうのがいいの?」
「うん」
「そうかな~。俺はたくさんの女の子と付き合いたいな~」
「マスターに言ったのが間違いだったね」
カップの中に残り少なくなった珈琲が、寂しさを煽る。
「奈々ちゃんも、そろそろ本気の恋愛したら?」
カップを持つ手が止まる。
「……してるよ。いつでも本気だよ」
「そう?」
見透かしたようなマスターの返事。
マスターには一度、苦しかった高校時代の恋愛の話をしたことがあった。
それをマスターはまだ覚えているらしい。
「奈々ちゃん」
「はい」
「俺の愛人になりたくなったら、いつでも言ってね」
珈琲を吹きだしそうになった。
「なんで、愛人?マスター結婚してたの?」
「いや」
「じゃ、なんで彼女じゃなく愛人?」
「んー、奈々ちゃんが愛人顔だから」
あはは…と渋い声で笑うマスターを見て思った。
この人、珈琲店を趣味でやってるって本気だったんだ。
人をからかって遊ぶのが本当に楽しそう。
しばらくマスターとおしゃべりをした後、珈琲店を出た。
辺りは真っ暗になっていたけど、気分は上々。
やっぱり寄って良かった。
久しぶりに思い出した高1の頃の記憶を、珈琲で胸の奥に押し込めた。