コクリバ 【完】
バシッ

「いたっ」

吉岡が消えた方を見てボーっとしていた左肩に衝撃が走った。

左を見ると絢香(あやか)が、何を言いたいのかすぐに分かる目で私を見ている。

高校に入ってすぐにできた友達。背は私よりも小さいのに、意志の強い瞳を持っている娘。
俗にいう目ヂカラがある絢香に、私は少し憧れていた。

絢香の目から逃れるように、カバンに教科書を詰め込む。
その横で絢香がウフフと嬉しそうな声をもらして待っている。

聞かれてたんだ。

恥ずかしいのと嬉しいのとで、絢香の方が向けない。

「やっぱりね~。そう思ってたよ。いつかはそうなるだろうなぁって。でも意外と早かったねぇ。もっとモタモタするかって予想してたからね」

絢香はもっと何かを言いたいって顔して私の方を見てる。

「ちょっと声大きいって」
「でもさ吉岡って、ロマンチストだったんだね。あのコクリバに呼び出すなんて」

キャハハと自分の想像に喜んでいる絢香。

違うって。なんて言いながら、油断すると上がってしまう頬と口の端を懸命に下げようと努力していた、何も知らなかった頃の私。

まだまだ何をしてても楽しい時代だった。
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