コクリバ 【完】
「おめでとう絢香」
「おめでとう」

子供が出来るって、こんなに嬉しいことだったんだと知った。
ましてやずっと一緒にいた親友の子供。
まるで自分にも出来たかのように嬉しい。

満面の笑みのともちゃんと私とは対照的に、
「……うん……」
絢香は浮かない顔。

「なに?」
「どうしたの?」
「……うん……」
「マリッジブルー?」

ともちゃんが聞いた。

「やっぱ、そうなのかな?」
絢香が遠い目をしている。

「結婚イヤなの?」
私も聞いてみた。

「イヤなんじゃなくて、これでいいのかなーって思って……」
「何が?」
「このままオサムと結婚していいのかなーって……」

そう言って絢香は下を向いた。

絢香らしくない。

「それがマリッジブルーだよ」
ともちゃんが元気づけようとしている。

「でもさ、私オサムしか付き合ったことないんだよ。それでいいのか私の人生」
「いいんじゃない?」
「奈々!他人事だからって投げやりすぎるぞ!」
「だって、私からしたら憧れだよ。ずっと一人の人と一緒にいられて……」
「……」
「……」

憐れむような二人の視線に焦る。

「っヤダ。なんで二人とも無言?」
「奈々ちゃん、まだあの人のこと、好きなんだな~と思って……」
「違う違う。そうじゃなくて。具体的にとかじゃなくて……」
「奈々。この前の彼氏は?」

今、その話題?

「うん……別れた」
「ちょっと奈々!もう別れたの?」
「浮気されたらしょうがないじゃん」
「浮気?それは許せないね」

ともちゃんが綺麗な顔で睨んでいる。

高校の頃、菊池義人の浮気で苦しんでいた時期を知っている。
それは綺麗になっていくともちゃんに、菊池義人が焦りを感じていたかららしいけど、だからと言って浮気が許されるもんでもない。
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