コクリバ 【完】
「はぁ……」

合コンは一次会で抜け出し、自宅アパートに戻って来た。

コーヒーを淹れて机に向かうと、疲れが一気に押し寄せてくる。
緊張していた分、期待が外れたのが余計に疲労感につながる。

小さな机の上の細々した物が入っている引き出しを開けると、そこからシルバーのハートのストラップを取り出した。

「変色しちゃった……」

時々、思い出したようにハートを磨いている。

もう5年も過ぎたのに、いまだに高校時代の思い出を大事に持っているなんて、自分でもバカだと思う。

こんなのがあるから、自衛隊と聞くだけで、のこのこ合コンに参加したくなるんだ。


でも捨てられない……

写真も何も持っていないから、これが唯一のあの人の想い出。

5年間、私は何をやってきたんだろう。

彼氏がいなかった訳じゃない。
それなりに恋愛もしてきた。
なのに、いつも思い出すのはあの人のこと。

切れ長の目が、低い声が、強く抱きしめられたあの感覚が、
今もハッキリと思い出せる―――





いや、もう忘れた。

あの人のことなんて、ほとんど何も覚えていない。


ハートのストラップを無造作に引き出しに入れた。
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