コクリバ 【完】
洋祐先生のおかげで、ゆうき君のお母様に落ち着いて電話をかけることができた。

残っていたプリントの整理は、真理子先生が「やっとくから」と代わってくれた。
めぐみ先生が既にゆうき君に帰りの支度をさせて玄関で待っていてくれた。

こんな失敗をした後だから、余計にみんなの優しさが嬉しかった。

ゆうき君と園門の前で待っているとき、何度も謝る私に「いいって、いいって」と言ってゆうき君が手を握ってきた。

その小さくてフワフワした手が愛しくてしょうがない。

「ごめんね、ゆうき君」
「ななせんせい、ないてる?」
「ううん。泣いてないよ」
「せんせいもゆうきのいえに、くる?」
「先生はおうちの前までだよ」
「えー。あそばないの?」
「うん。まだお仕事のこってるの……あ、来たよ」

すっと私たちの前に、濃紺の国産車が止まった。

見るからに高級そうな車の窓が開き、洋祐先生が乗り出すようにして「後ろにどうぞ」と優しく言ってくれた。

ゆうき君と後部座席に乗ると、
「よーすけ、うんてんできるの?」
「やった!みんなであそぼう!」
小さな体を弾ませてゆうき君は喜んでいた。

ゆうき君のはしゃぎ声と、洋祐先生の笑い声が聞こえていた車は、あっという間にゆうき君の家の前に着いて

「お母様。申し訳ありませんでした」
「いいえ。こちらこそ連れてきてもらってすみませんでした」

ゆうき君のお母様が怒っていなくてホッとした。

「私が読み間違えていて……明日がお残り保育ですね?」
「そうです。明日よろしくお願いしますね。 ほら、勇樹、帰るよ」
「やだ」

振り返るとゆうき君がまた車に乗っている。
その横には笑っている洋祐先生。

ゆうき君はしばらく帰りたがらなかったけど、最後は洋祐先生に抱っこされるようにして家の玄関まで連れて行かれていた。

無事にゆうき君を家に送り届けることができて、ふーっと体の力が抜けていく。
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