コクリバ 【完】
園児たちが夏休みに入り、ゆっくりとした日々が続いていた。

夏休みを利用して幼稚園の先生たち向けの研修が行われていてそれに参加したり、普段はできない年中組担当のメンバーで親睦会と称して飲みに行ったり、中々に楽しい夏休み。

そして誕生日を迎え、私は22歳になった。
誕生日だからと言って、何かあるわけでもなく、普通に仕事していたのを不思議と寂しいとは思わなかった。

今の私には、このくらいの方が合っている。

特に予定がある訳でもなかったから、夏休みのお預かり保育の当番も多めにやった。
一人暮らしには少しの残業代もありがたい。


お盆休みになってまとまった休みが取れたから、やっと実家に帰ることにした。

電車で一時間ちょっと。
そんなに遠い距離じゃないから、余計に帰ろうという気にならないのかもしれない。

駅からの道をゆっくりと日傘を差しながら歩く。
蝉の声を聴くだけで汗が出てくる。
近所のコンビニで涼んで行こうと中に入った。

外の暑さからしたら天国のコンビニから何気に外を見ると、目の前の川にかかっている橋が見えた。

雨の日にあの人が傘もささずに渡っていた―――あの時の光景を思い出す。

今は強い日差しに眩しいくらいに照らされている橋。

この橋の向こう岸には遊歩道。

変わらない景色に背中を向けた。

実家の近くはイヤでもいろんなことを思い出す。
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