コクリバ 【完】
「そう。でも、今でも好きなんだろ?」

谷さんが枝を拾いながら言う。

「いえ。高校生の頃の話です。もう6年くらい前の……」
「そうなんだ。じゃ、もう泣かなくていいでしょ」
「…そうですね」

あの人に怒られているようで、視線が下にいってしまう。

「……」

私、なんで未だに泣いてしまうんだろ……

「……忘れられないのかも」

ポツリと漏れた一言を、谷さんは聞いていた。

「うん。無理してるって感じがする」
「え?」
「無理して忘れようとしてる」
「そう、見えますか?」
「無理しなくていいんじゃないか?」
「そうですね。でも、忘れないと。その人はもう私の事なんて覚えてないくらいなんです。ほとんど私の片想いっていうか、相手にされてないっていうか…」

話していて情けなくなってくる。

「なんでこんな話してるんでしょうね。すみませんでした。行きましょうか?」

変なお願い事をしたせいもあって、冷静になろうと意識した。

なのに……

「忘れようとするから、忘れられないんじゃない?」
「え?」

立とうとして片手をついたまま、固まった。
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