コクリバ 【完】
「なんですか?」
「いや、なんでもない」
「気になります」
「……その上書きの相手、俺がなろうか?」
「え?」

見ると、谷さんが優しい目でこっちを見ていた。

冗談とも取れる言い方。
私が素直にその誘いに乗れば二人は「恋人」、断れば「冗談」にできる。

駆け引き―――……

「谷さんは、彼女いないんですか?」
「うん」
「やっぱり先生なんですか?」
「いや。俺は一般企業に就職した。結構、大手だよ」

クスリと笑うのは、私の訊きたいことを先に答えたから

「奈々は?」

それは、ヤバイ。
かなり、ヤバイ。
あの人の声で呼び捨てとか……どうしても重ねてしまう

「私は、年中組、ヒマワリ組を担任してます」

何故か照れながら答えると、

「えっ?」

谷さんが真顔で驚いている。
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