コクリバ 【完】
「なに?」

低い声が響く。

「居場所がなくて……」
「洋祐が睨んでる」

メインの焼き場の方を見ると、ハーレム状態と、その周りにも何人かの輪が出来上がっていた。

「見てないですよ」
クスリと笑ってビールを手渡すと、谷さんが受け取って足元に置いた。

私も隣の椅子に座り、ビールを開けた。

「俺と洋祐の友情に、ヒビ入れる気?」

低い声は穏やかで、楽しそう。

「そんなつもりないくせに……」

私の返しには、谷さんは何も言わず微笑むだけだった。

気怠い暑さの中で飲む冷えたビールは、イヤでもテンションを上げてくれる。
しばらくは谷さんと二人でとりとめのない会話をした。

それが、あの人と会話をしているようで、時折、高校時代の光景と重なったりもした。

“異業種交流会”と言った洋祐先生も、最後の方はくつろいでいて、花火で他の人が盛り上がっているときには、少し眠そうにしていたくらい。

中々に楽しかったバーベキューも、周りの迷惑にならないように、と早目の解散となった。

この辺りが大人だと思う。

少し物足りない気分で部屋に戻ると、部屋には3人だけで真理子先生がいつまでも戻ってこなかった。

「これは、真理子先生上手くやったな」と、同室のサキ先生と理恵先生と盛り上がった。

宿泊先で恋の話なんて……なんだかやってることは高校時代と変わらない。

そんな私も早寝早起きの癖が抜けないで、真理子先生が戻ってくるのを待たずに眠たくなってしまった。

心地良い疲労感とアルコールのせいで、こんなところで寝られるだろうかと心配したのが嘘みたいに、すぐに眠りに落ちたようだ。
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