コクリバ 【完】
「副園長の洋祐先生だよ」

目だけで、「その睨むのを止めるように」と兄に訴える。

「洋祐先生。兄です」

洋祐先生には苦笑いで説明した。

二人がお互い会釈をしている。

でもまだ、兄の眉間にはシワが寄っていて

「副園長って、この間のか?」

兄がどれのことを言ってるのか全く分からない。

「もう戻るね。午後も忙しいから」

二人を話させたくなかったから、洋祐先生の背中を押すようにして、その場を去ろうとした……のに、

「奈々ちゃん、待って」

兄の彼女が呼び止めた。

空気読んでほしい。

「これ、差し入れ」

照れながら渡された物は、甘い香りのするクッキー。

「ありがとうございます」

なんだかお姉ちゃんみたい。
これで兄の過保護もなくなるかもしれない……


職員室に戻る途中、洋祐先生が振り返りながら言う。

「お兄さんだったんですか?私はてっきり奈々先生の彼氏かと思いましたよ」

彼氏だったら、どうしてたと言うんだろう……

そう思ったけど、聞けなかった。
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