コクリバ 【完】
「俺の本当の仕事、知ってる?」
数分の沈黙の後、マスターが静かに話し出した。
「他に仕事あったんですか?」
「そ。ライターなの。記事書く人」
「え?いつのまにそんなことしてたんですか?」
「知らなかった?時々、ここを他の奴が手伝ったり、長期休業したりしてたの」
「知ってましたけど、マスターがやる気がなくなったのかと……」
「そんなんで休業するわけないじゃん。取材に行ってたからだろ」
そうなんだ、と言った私の笑みは乾いていた。
「俺は一人でやることが多いから、カメラもいつも持ち歩いてて……店内に飾ってる写真は自分で撮ったやつ。いいだろ?どれも気に入ってるやつだよ」
店内に飾ってある無数の写真をマスターが撮ったとなると、相当な回数取材に行ってることになる。
「……」
「いいでしょ。あの写真」
「……はい」
「あれでさ。俺が満足してると思う?」
「は?」
「どの写真もその時のベストだと思う。
だけど、もっと良いものが撮れたり、書けたんじゃないかと後から思う。毎回ね……」
「……」
マスターが、自分で撮ったという写真を見ている。
「みんなそうなんじゃないかな……」
「……」
「完璧。って思ったら、もうその仕事しなくていいじゃん。悩みながらやるからいい物が作れると……俺は思ってる」
「……でも……」
「悩まない先生には、俺は大事な子供を預けたくないな」
「マスター、子供いたんですか?」
「いないけど……」
「……」
「……」
「……」
「自分の意見が一番だと言われたら、それで終わりじゃん。いいんだよ悩んで……でも辞めちゃダメだ。何も解決しない」
そうだと思う。
マスターが言いたいこともよく分かる。
でも、もう怖い。
数分の沈黙の後、マスターが静かに話し出した。
「他に仕事あったんですか?」
「そ。ライターなの。記事書く人」
「え?いつのまにそんなことしてたんですか?」
「知らなかった?時々、ここを他の奴が手伝ったり、長期休業したりしてたの」
「知ってましたけど、マスターがやる気がなくなったのかと……」
「そんなんで休業するわけないじゃん。取材に行ってたからだろ」
そうなんだ、と言った私の笑みは乾いていた。
「俺は一人でやることが多いから、カメラもいつも持ち歩いてて……店内に飾ってる写真は自分で撮ったやつ。いいだろ?どれも気に入ってるやつだよ」
店内に飾ってある無数の写真をマスターが撮ったとなると、相当な回数取材に行ってることになる。
「……」
「いいでしょ。あの写真」
「……はい」
「あれでさ。俺が満足してると思う?」
「は?」
「どの写真もその時のベストだと思う。
だけど、もっと良いものが撮れたり、書けたんじゃないかと後から思う。毎回ね……」
「……」
マスターが、自分で撮ったという写真を見ている。
「みんなそうなんじゃないかな……」
「……」
「完璧。って思ったら、もうその仕事しなくていいじゃん。悩みながらやるからいい物が作れると……俺は思ってる」
「……でも……」
「悩まない先生には、俺は大事な子供を預けたくないな」
「マスター、子供いたんですか?」
「いないけど……」
「……」
「……」
「……」
「自分の意見が一番だと言われたら、それで終わりじゃん。いいんだよ悩んで……でも辞めちゃダメだ。何も解決しない」
そうだと思う。
マスターが言いたいこともよく分かる。
でも、もう怖い。