コクリバ 【完】
自分の思考にどっぷり浸かっていたから、トントンという突然のノックの音に身体がビクリと跳ねた。

ガラッと美術室の扉が開く音が聞こえる。

私のところからは衝立が目隠しになっているから、誰が入ってきたか見えない。

「市原」
聞こえてきたのは特徴のある低い男の人の声。

この声は…聞き覚えが……

「悪いな、邪魔して」

スリッパを引きずるように歩く音。

全身が心臓になったかのように、鼓動が早く打ち始めた。

デッサンの音が止まる。

「珍しいな。なんの用だ。高木」

うそ。高木先輩?

「悪いな。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

そう言いながら、本当に高木先輩が市原先輩の横に現れた。
黒いトレーニングウエア姿で、首にはタオルが掛けてある。

私の胸がキュンと鳴った。

これはもう……恋だと認めない訳にはいかなかった。

「なんだ」
市原先輩が素っ気なく答える。

バスケ部の高木先輩と美術部の市原先輩。
格好いい二人が並ぶと、そこは非日常の世界のようにキラキラ輝いているみたい。

「美術部に……」
高木先輩は私に気が付いてないらしい。
市原先輩にだけ話しかけてる。

その目が市原先輩のクロッキー帳へと移動した。

その直後、高木先輩がこっちを見た。


息が止まるかと思った。
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