コクリバ 【完】
吉岡とは、高校に入って出会った。
初めて話したのは5月の席替えのあと。
吉岡と私の席が前後になったのが仲良くなったきっかけ。

英語の授業の時、突然後ろを振り向いて「消しゴム貸して」って言ってきた吉岡。
驚いたけど「私、二つ持ってるからあげるよ」そう言うと薄く笑って頷いてた。

次の日、現国の授業中に、突然目の前に可愛いらしいクマの消しゴムが転がってきた。
バッと顔を上げると「やる」ってこちらを見ないで肩越しに言われた。

笑いをこらえながら、その背中にだけ聞こえるように返事した「可愛い過ぎだから」と。

それが始まり。

私たちの席は窓際だったから、二人で話すのにはちょうど良かった。
吉岡は窓に背中を預けて、整った右斜めの悩殺ポイントの顔を私に見せ続ける。
時々しか私を見ないのに、たまに視線がぶつかるとぎゅっと心臓が掴まれたようになった。

よく話したのは吉岡の部活のこと、バスケ部は練習がきついとか、憧れの先輩がいるとか

一度、ノートの切れ端に書いた詩みたいなものを、渡されたことがあった。

行き場のない恋心は
さよならを告げる前に
空に広がり
君に届け

吉岡が書いたラブレターかと思って、手が震えた。

あえて、何でもない口調に聞こえるように
「なにこれ?」って聞くと
今ハマっているアーティストの歌詞だと、種明かしされた。

肩から力が抜ける。

あ~そっか、って無理に笑顔を作るしかなかった私。

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