コクリバ 【完】
「もしかしてそれを言うために、今日待ってたんですか?」
「他に何がある」
「いつからいたんですか?」
「さぁな」
「じゃぁ、今日、電話してきたの先輩ですか?」
「本当に知らなかったのか」
「はい」
「夏もだ」
「夏?」
「夏にもかけただろ?」
「いえ。かかってきてないです」
「かけたんだよ。着信履歴残ってんだろ?」
「そんな前のはもう残ってないですよ」

口を尖らせながら言うと、はっきりと先輩の左頬が上がった。

「言うようになったな。奈々……」

呼び捨て……

心臓がギュッと掴まれたかのように痛い。
低い声が私の名前を呼んだ。

高木先輩本人の声が……

ずっと聞きたかった―――

震えるくらい素敵な声。


でも、ちょっと待って。
いやいや、これはおかしい。
何を今頃ドキドキしているんだろう。
先輩の事なんてもう何とも思っていないはずなのに……

そっか、これは……そう!刷り込み!
高校時代に好きになり過ぎて、今でも胸が反応してしまうだけだ。

もう今は、恋愛なんて誰とでも簡単にできるし
あの頃みたいに苦しい思いなんてしなくても楽しくやってるし

刷り込みなんかに惑わされちゃいけない―――
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