コクリバ 【完】
「夏に、サトルに会った…って言うより、呼び出された」

高木先輩が真剣な顔で語りだすけど、私の鼓動がうるさくてしょうがない。

「あいつ、結婚するらしい」
「結婚ですか?誰と?」
「取引先の人で、年上なんだと」
「そうなんですか」
「4歳も年上だってよ。あいつ好きだよな、そういうの」
「へぇ」

高木先輩が穏やかに笑っている。

もう市原先輩とは仲直りしたってこと?

「おまえ本当に知らなかったんだな」
「知らないですよ。なんで私が知ってるんですか」

「……サトルに謝られた。あいつ、土下座する勢いで、謝ってきた。おまえにも悪かったって。今更謝られても、奈々は戻ってこないって言うのにな……」
「……」

私が戻らない?
戻ってほしいってこと?

「あいつのやったことは許されることじゃないけど、あいつはずっと苦しんでたんだ」
「……」
「俺は一番近くにいたのに助けるどころかあいつを追い込んでたらしい。だからって、許す訳じゃねーけど……」
「先輩……」

先輩が握りしめた拳が震えている。

「一発。殴っといた。重たいのを……」
「は?」
「一発だけじゃ足りなかったな」
「たりな……え?」
「おまえが俺を裏切って、あいつと浮気してると思ってた」
「してません」
「あぁ。夏までそう思ってた」

夏まで?
ってことは6年間、先輩は忘れてなかったってこと?
< 413 / 571 >

この作品をシェア

pagetop