コクリバ 【完】
しばらく顔を上げられなくて両手で覆っていると、誰かが近付いてくる気配がした。

ゆっくり顔を上げた時、目の前にクリームがたっぷりのったウインナコーヒーが一つだけ置かれた。

頼んでないけど…

横を見るとマスターが私を優しい笑顔で見下ろしている。
その顔が真顔になった時、

「俺の愛人を泣かせるな」

とんでもないことを言いだした。

一瞬で私の涙も乾く。

先輩を見ると、眉間にシワを寄せてマスターを睨んでいる。

「ちがっ。マスター!何言ってるんですか!先輩、違うんです……」

なんかやってることが6年前とそう違わない。6年経ったっていうのに、私必死過ぎる。

先輩を見ると、左頬が上がっている。笑ってる?

先輩も同じ風に思っているのだろうか……

「愛人やってるのか?」

左頬があがったまま、先輩が聞くから

「違いますよ。この人、結婚もしてないんですよ」

私の言葉にムスッとしたマスターが口を開いた。

「じゃ、俺が結婚したら、奈々ちゃんは愛人になってくれるの?」

「そういう問題じゃないでしょ」

向かいの席でクスリと笑う先輩を見て、6年の月日を感じた。
もし6年前なら、先輩は不機嫌になっていた気がする。
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